西へ(徒歩日本横断#完結)

最終日

与那国島のゲストハウスで起床

天気は良く、晴れ間が見える

沖縄に入ってから長い長い嵐のように厚い雲が2週間もの間空を覆い続けたが、やっと過ぎ去ったようだ。まるで旅の最後を祝福するかのように。

今日、長い長い旅が終わる。

靴紐をいつも通り固く結ぶ。

リボン結びをした後に紐の間に挟み込んで必ず解けないように。そんな毎日の当たり前だったことでさえ今日が最後だ

いつもより少しきつく締めて歩き出す。次に靴紐を緩める時はこの旅が終わって旅人の看板を降ろすその時

隣には有給を取って急遽東京から飛んできた相方、見届け人として最後の瞬間を共に歩くことになっていた

「よし、行こう」

午前9時目指し続けた最果てへの

確かな一歩を踏み出した

ゴールの日本最西端の地である西崎までは、与那国をぐるりと一周してから向かう。

まずは与那国島の東の果てである東崎へ

ゲストハウスがある祖納の集落からは約5キロ。距離としては短いが、それでも絶海の孤島と言われる断崖に囲まれた与那国島はアップダウンが激しく、なかなか歩きごたえのある道のりだ

ふと横を見れば

広大な原野のように広がるパノラマの絶景

そんな与那国の風景を眺めながら3キロほど歩き、馬が集落へ立ち入ることのできないように設置されたテキサスゲートを越え東崎へ辿り着くとそこには与那国島の固有種であるヨナグニウマの楽園が広がっていた

180度広がる太平洋と牧草地帯をバックに草を食む馬という風景。文明を生きる自分たちにとってはここが日本であることを忘れてしまうかのような浮世離れした風景だ。

「日本であることを忘れる」とは書いたもののここは日本という国ではあるが、東京から直線距離で2000キロ離れている国境の地。むしろ100キロしか離れていない台湾の方がよっぽど近い、西の果てだ。

そんな場所まで歩いてきたのだと、こういう風景の中を歩いていると強く実感する

そう、遥か遠く北方領土が目視できるほどに東、日本最東端の岬から遥々4000キロを超え、歩いてきたのだと。

東崎を出れば、あとはひたすら西へ

東シナ海にぽつりと浮かぶ

最後の島の海風に押されて

隣を歩く

大切な相方に背中を押されて

日本の果てへ

そして自分自身の

旅路の果てへ


14時50分

遂に「最西端の地」その文字を視界に捉える

相方と最後の握手を交わす

涙が溢れてくる

それは達成感なのかもしれないし、旅が終わる寂しさや安堵感なのかもしれない

だけども多分その涙はもっと純粋で

ただ目指し続けた最果ての地にこの足で辿り着くという混じり気のない単純な事実、そして実感。そこから湧いてくる止めようのない熱い想い。そんな涙だったのだと思う。

122日間、4078キロの道のりを進み続けて

1人の男は辿り着く

自分自身のロマンの果て

曲がらずまっすぐに理想を追いかけ

歩み続けた

この道の果てに

徒歩日本横断。そして18歳の夏、自転車日本一周から始まった学生時代5年間の旅路はここで完結だ

これは自分自身で決めていたこと

だから後悔は無いし、後悔しないように己の選んだ道を信じて、時には歯を食いしばって、前だけを向いて、自分だけの旅路を進んだ。

それは今思い返せば途方も無い距離と時間。

自転車で12328キロ、徒歩で8064キロ、合わせて20392キロもの道のりを、「自分の足で」そんな大切なロマンと共に駆け抜けた。

だからこそ、この日本最西端の地を持って長く背負ってきたボロボロになったバックパックと「旅人」という看板は一度降ろすことにする

これからは大学生から社会人として、新たな世界に身を投じる決意だ。それは今よりも酷く険しい茨の道かもしれない。

だけどこの旅路と同じように、時に誰かの力を借りて、時に誰かに背中を押されて…時に誰かと笑って泣いて…それでも自分の足で乗り越えていける。

それがどんなに小さい一歩でも、誰よりも遅い一歩でも、弛まぬ一歩を踏み出し続ける。

そんな地道な一歩の積み重ねこそ、誰もが驚くほどに果てしなく遠くへと繋がる唯一の切符だと、もう知っているから。

そう。旅人としての自分は無期限休業だ

だけどもし

「旅に出よう」

そんな声が自分の中から聞こえてきたら

心の底から聞こえてきたら

その時はまた旅に出よう

いつでもいい

どこでもいい

どこまででもいい

また旅に出よう

この道がある限り

旅路は続いていくのだから

その時はきっと

初めて旅に出た

あの時の気持ちそのままで

そして辿り着いた

今の気持ちそのままで

風は西から吹いてくる

その風は歩き始めた遠い東の果ても越えて、いつかはまたこの西の果てに戻ってくるように、果てしなく、果てしなく、旅を続ける

旅の終わりに心地いい余韻を残して

どこまでも

どこまでも

吹き抜けていく

足りないものばかりでも

旅をする理由に

答えなんかいらなくて

大義なんて必要なくて

辿り着けばいつかまた

笑える時が来ると信じて

辿り着いたその場所で

感じる震えるほどの想いが

そして辿り着くまでに出会った全てが

自分自身の旅路への

何よりの答えだと

いつか分かるその時まで

人は何度でも

旅に出る

そして俺は

あの夏に旅に出た全てを

出会った全てを

進み続けた20392キロを

いつまでも

決して忘れないだろう


自転車日本一周 1年目

2016年8月1日〜9月12日 (18歳)

走行距離 3363キロ

………………………………………

自転車日本一周 2年目

2017年7月30日〜9月13日 (19歳)

走行距離 4170キロ

………………………………………

自転車日本一周 3年目

2018年7月30日〜9月19日 (20歳)

走行距離 4795キロ


……………………………………………

徒歩日本縦断 

日本最北端宗谷岬→日本最南端波照間島

2019年8月4日〜12月12日 

120日間(21-22歳)

総歩行距離 3986キロ

……………………………………

徒歩日本横断 

日本最東端納沙布岬→日本最西端与那国島

2020年8月5日〜12月12日 

122日間(22-23歳)

総歩行距離 4078キロ

……………………………………

5年間 

総日数 387日

自転車日本一周 12328キロ

徒歩日本縦断・横断 8064キロ

総移動距離 20392キロ

……………………………………………

5年間にも及ぶ長い旅路の中で、沢山の応援を本当にありがとうございました。SNSを通じての応援や、旅中に出会った方々の声援や差し入れ、そのどれもがいつも背中を押してくれて、旅を続ける自分自身の何よりの励みになっていました。

この5年間。見てくださった皆さんも自分と一緒に日本中を旅をした気分になってくださっていればそれほど嬉しいことはありません。

そして願わくば、この旅が誰かにとっての、なにかのキッカケになっていれば、それ以上に幸せなことはありません。

さて、僕はこの日本を2万キロ旅をしてきましたが、実は僕が見てきた日本の風景はほんの一部です。日本の道路の総延長は120万キロ。僕が旅してきた2万キロなんて、ほんのごく僅かで、きっともっとまだ誰も見たことのない美しくて、少し切ない風景、素敵な人たち、そして道の果てが、日本には沢山あります。僕がきっかけでも、そうでなくても、少しでも皆さんがそういう日本に触れてくれて、日本のことを大好きになってくれたら、それはとても素敵なことだなぁと思っています。

本当に5年間。旅を見届けてくださりありがとうございました。


2020年 12月13日 

横石陽大


5年間続けてきたブログもリアルタイムの旅日記としては今日が最後です。いつも見てくださり本当にありがとうございました!!これからは少しずつ、またこのブログでなにか自分に書けることを書いていきたいと思っています。

にほんブログ村 旅行ブログ 日本一周へ


にほんブログ村



834 件のコメント

  • 見たこともない いい景色、人情、孤独、繋がり、想い、チカラ、達成感を見せてくれてありがとう。
    勝手ながらインスタで一緒に旅をさせてもらったよ(^^)♪

  • 学生最後の旅。
    無事に終わり本当にお疲れさまでした
    毎日のブログ更新が楽しみでした

    この5年間の旅の記憶はどんな困難にも立ち向かえる
    頼もしい心の味方になりますね

    時速5キロの美しい風景と旅愁ただよう風景・・・
    突如始まる珍道中・・・
    旅をおもしろ楽しく追体験できました 笑

    旅の途中に出会った人、ハプニング、感じたコト
    思ったコト、、、色んな出来事。。。
    飾らない文章は鮮やかに旅のシーンを蘇らせました

    私の日本の心象風景を劇的に変えてもくれました

    この旅の探求・・・
    陽大さんが言っていた “ 探し続けていた憧れの正体 “
    がずっと心の隅に残っています

    それはきっと当たり前にある美しさを大切に想う心。

    私は前に進むコトばかり考えていた気がします
    過去を振り返っても仕方がない…
    でもこの旅ブログを何度も読み気がつきました

    過去を振り返るコトはそんなに悪くないのかも?

    ブログには振り返り撮られた写真もありました
    出会うはずのなかった美しい風景たち、、、
    興味の宝は意外とすぐ近くにあるのかも…
    夢や目標も本当はすぐそこにあるのかも…

    。。。ふとそんな気がしました 笑

    いつの日か・・・
    陽大さんが結婚をしてこの壮大な冒険記録を子供と
    語り合える日が来るといいですね

  • 徒歩日本横断の旅
    達成おめでとうございます!

    これが5年間の旅の最終章だったとは…

    佐多岬のインスタからとんできたら
    壮大な旅の記録が有りました❗️

    佐多岬(大泊)の出身の私は
    もう、10年 帰省できてませんが
    インスタの写真、ブログで故郷の
    情景が見れて嬉しい限りです。

    しかも、2回も訪れて下さったのですね。

    ドキュメンタリー的な
    旅番組が大好きで、火野正平さんの
    こころ旅にはアップダウンを考えると
    手紙は書けませんし…
    本当に感謝です。ありがとうなぁ(^。^)

    現在、東京の郊外、在中ですが、
    冬の日没の早さは、10月頃までは
    明るい鹿児島に育った私は寂しく
    感じます。
    陽大くんも、今、そう感じてるかな?

    余談ですが、
    私が小1の時、リヤカーを引いて日本一周していた人がいました。
    のちに世界までリヤカーを引いていたのにはびっくりしました。

    なんだか世間は、コロナや豪雪で
    大変な事になっていますが、
    身体に気を付けてお過ごし下さいね。
    お疲れ様でした🙇🏻

  • コメントを残す